雲南省のシャングリラ県から、車で15時間走ると、雪山を2つ越えた所に山々に囲まれた奥深い土地に徳欽県開谷村がありました。主婦のアパウさん(48)は、3人の夫に朝食を用意するため、午前6時前から厨房に入って忙しく働いていた。7時までにトラクター運転手をしている最年長の夫(51)を村の寄合に、2番目の夫(50)を高原に生息する動物ヤクの放牧に、3番目の夫(43)を工事現場にそれぞれ送り出さなければならなかったからだ。
アパウさんの毎日は、「3人兄弟」でもある夫たちの朝食作りから始まっている。 「3人の夫を同じように愛している」というアパウさんは一妻多夫の家族構成について、「先祖代々、同じ暮らし方だから、何の違和感もない」と語り、「夫が3人もいると、毎日いろんなことが起きて、話題が尽きない。夫婦げんかする暇もない」と笑顔みせる。2男2女計4人の子供をもうけ、戸籍上は全員、最年長の夫の子にした。「長男は彼の子であるのは間違いないが、下の3人はどの夫の子か分からない」と明かし少し顔を赤らめた。
この村は9戸から成り、一妻多夫世帯は5戸で、周辺数十カ村と同様、約半分の割合だそうです。
又、兄弟たちを夫にするケースがほとんどだが、友人同士、叔父と甥で一人の妻を迎える例もあるそうです。
この風習は、チベット族が住む3000メートル超という高山の厳しい自然環境と深い関係があるとされる。耕作、放牧可能地に限りがあり、農耕と牧畜を兼業せざるを得ないことから、多くの男性労働力が必要になった。
また、相続による財産分与で土地が細分割されて、兄弟全員が生活を維持できなくなる事態を避けるため、分家せずに妻を共有するようになったともいわれているそうです。
■大家族と労働力の関係
村は9戸から成る。一妻多夫世帯はうち5戸で、周辺数十カ村と同様、約半分の割合だ。アパウさんの長女、アヨンマさん(29)によると、漢族の生活習慣が近年は、徐々にこの地域にも入り、一夫一妻の世帯が増えているという。一妻多夫婚は、チベット族の間で古くから伝わってきた。兄弟たちを夫にするケースがほとんどだが、友人同士、叔父と甥で一人の妻を迎える例もある。
この風習は、チベット族が住む3000メートル超という高山の厳しい自然環境と深い関係があるとされる。耕作、放牧可能地に限りがあり、農耕と牧畜を兼業せざるを得ないことから、多くの男性労働力が必要になった。
また、相続による財産分与で土地が細分割されて、兄弟全員が生活を維持できなくなる事態を避けるため、分家せずに妻を共有するようになったともいわれている。
■地元当局はタブー視
チベット族は一妻多夫婚を伝統的風習と位置づけるが、地元当局はタブー視している。
徳欽県外事招商局の幹部は産経新聞に、「一妻多夫婚は古い習慣で、解放(1949年)以前はあったかもしれないが、一夫一妻と定められた法律がある今ではないはずだ」と答え、記者がチベット人の村に入ることも阻止しようとした。
中国メディア関係者によると、一妻多夫の話題の報道は国内では厳しく禁じられている。これを取り上げたある北京の雑誌は、編集長が更迭された。
チベット事情に詳しいある中国人女性ジャーナリストはメディア規制について「当局は今ところ、一妻多夫婚を実質、黙認しているが、本音ではこの風習を異質なものと思っている。漢化教育などを通じてやめさせようとしているのは事実で、なくなるのは時間の問題だろう」と話す。(雲南省迪慶チベット族自治州徳欽県 矢板明夫、写真も)
■チベット族 ユーラシア大陸中心部に広がるチベット高原を中心に居住するモンゴロイド系民族。チベット語とチベット文字を使用し独自の文化を持つ。歴史上、中国の最大民族である漢族と対立することも多く、現在は中国の少数民族のひとつに数えられるが、1部で漢語の呼び名「チベット族」を嫌って、「チベット人」と自称する。中国からの独立を目指す動きもあり、中国が抱える民族問題として国際社会から注目を集めている。中国国内とインドやネパールなどを合わせた総人口は、約600万人。